皆さん、ご無沙汰しております。皆さんにおかれては、この2年余りに及ぶコロナ禍の状況の下、十分な稽古環境が整わない中、それぞれが努力、精進を重ね剣道の活動を繋げておられることでしょう。
わたしの方は、「令和2年3月1日付、拙談号外『たたみ一畳の修行』」でお示ししたように、もっぱら自宅での一人稽古に勤しむ日々を送っております。
新宿スポーツセンターの稽古には一昨年(令和2年)の2月初旬に伺ったきりです。その後、2・3度、稽古を見学に参りましたが、皆さん方と剣を交えるには至っておりません。近々、本格的に稽古を再開しようと考えております。
今年も春季の段位審査が近づいて参りました。できるだけ多くの方に合格して欲しいと願うものです。
全剣連は六段以上の審査を直営で実施しますが、審査員(6人の先生方)が一人の受審者の立合いをバラバラの見定めで審査していては、適者を的を外さず合格させることができません。
そこで全剣連は、1年前から審査の着眼点について審査員相互間で認識を共有する試みを行いました。
同様に受審者の皆さんにも、共有した認識を体して修錬を積めば、必ずや審査員の眼に適う立合いができるものと信じます。
下記に掲載する拙著「審査の着眼点について 審査員相互間で認識を共有」は、全剣連の広報誌『剣窓』本年2月号に掲載されたものです。
『剣窓』を購読されていない人のため、ここに転載させていただきます。
審査の着眼点について
審査員相互間で認識を共有
副会長(審査担当)
真砂 威
昨年11月に実施された一連の剣道六段、七段、八段の大型審査が無事終了した。審査の結果は、本誌令和4年1月号「審査会特集」を参照のこと。
六段、七段審査において一昨年までの審査会では、女性と高齢者の合格者が極端に少ない状況にあり、受審者の落胆と失望は計り知れないものがあった。
また、当の審査員も、そのことを憂慮しつつも余儀なしとし、また全剣連執行部側もその審査結果に危惧の念を懐きながらもなすすべがなかった。
女性と高齢者の合格者の数が極端に少ない原因は、『称号段級位審査実施要領』「段位審査の方法」に示された、審査の着眼点の一項目である「勝負の歩合」をどうしても最重要視するゆえである。
この「勝負の歩合」のみが重要視される審査であり続けるならば、今後も女性と高齢者について、それ相応の合格者を出すことはできない。
いっぽう剣道界における女性と高齢者の存在価値は年々いや増している。女性の剣道人口は全体の三分の一に迫る勢いで増加の傾向にある。
直面する少子高齢化社会において、これから幼少年の剣道入門者をいかに増やしていくかを考えるとき、女性の背後には少年少女の姿があることを忘れてはならない。
また、高齢者が元気で稽古に励む「生涯剣道」という言葉は、「交剣知愛」とともに剣道の特色を表す標語となっている。来たるべき「人生100年時代」を思うとき、剣道は最もこれに相応しい稽古事といえよう。
そして、これからの剣道界における少子高齢時代を乗り越えるためのキーパーソンは、間違いなく女性と高齢者である。
そこで昨年2月、長野県で行われた六段、七段審査会において、女性および高齢者の審査にあたって、審査員相互間および全剣連執行部で認識を共有することとした。
相互に認識を共有するとしても、六段以上の審査の着眼点である「理合」「品位」「風格」をどのような見地でとらえ、その段位に能う人をいかに見出すかは、審査員個々の裁量性にかかってくる。
特に「理合」については、攻防の技として年齢なりに、性別なりに、練度を上げることが可能な分野であり、また生涯剣道の過程で工夫が続けられるべき内容である。
長野県の審査では、次の6項目について審査員相互間で共有して審査を行った結果、女性と高齢者について満足のいく合格者を出すことができた。
段位は、剣道の技術的力量(精神的要素を含む)を示すものとしているが、その精神的要素をどのようにして「みる」のか、そこに審査の善し悪しがかかってくる。
また・・みるには、「観」「見」「視」「看」「診」などの漢字が宛てられるが、それら・・みるの語感をよすが縁に柔軟で幅広い審査眼でもって審査にあたることとしたい。
1.女性のもつ「端正さ」や「優雅さ」「しなやかさ」というのも品位・風格に結び付けて・・みる。
2.屈強な相手に対する体さばきや、相手の勢いを減殺させる動作も剣の理法と・・みる。
3.有効打突もさることながら、技を出す過程が理に適っているかどうかを・・みる。
4.体力的な弱点をどのように工夫し補っているかを・・みる。
5.長年の習性も風雪に堪えた持ち味と評価できないかを・・みる。
6.わが国には、不完全のものを尊び、またそれを美ととらえる文化が奥深く根付いていることを慮り、立合いの全般を俯瞰的に・・みる。
このような事項を審査員相互間で認識を共有することによって、旧来の審査の下で不合格の憂き目に会っていた多くの受審者が昇段を果たした。
要するに六段なら六段、七段なら七段を張って道場に立てるか、心気を乱すことなく端正な姿勢でこな熟せているか、という幅広い眼で・・みていただいた結果であろう。
実力のある人を見つけ出す鑑定力は、取りも直さず審査眼の進化にほかならない。
また、今後、段位審査を受審される方々も、これらの共有認識を踏まえた修錬を積まれることが合格の近道であると考える。
さて、最難関の八段審査であるが、近年さらに合格者の漸減傾向が進む。また、令和に入ってからは減少の傾向が著しくなっている。もちろん、コロナ禍の影響によるものであることは十分に考えられ、受審者の技倆が拙劣であったのであれば致し方ないことかも知れない。
しかし、このままで推移すると、剣道界全般の段位分布が極めて歪となり、組織の脆弱化につながることは否めない。
八段審査においても「理合」「品位」「風格」をどのような見地でとらえ、多くの受審者の中から、いかに八段位に相応しい実力者を見つけ出すか。
いま、その認識共有の緒についたところである。